limitとcolimit
圏論続き。
図式(diagram)
圏論では、h = f.g のことを、hとf.gは「可換」といいます。
圏Setでは、{(x,h(x))|∀x} と {(x, f(g(x)))|∀x}が等しいことを指します。
射それぞれf:Y->Z, g:X->Y, h:X->Zとすると、
という「図式」が書けます。図式は以下の性質を記述してます:
- 頂点が対象
- 矢印が射
- 矢印の連結が射の合成
- そして矢印の始点と終点をつなぐルートすべてを可換
函手(functor)
圏の射(や対象)を引数にとってその結果の射(や対象)が構成要素になるような圏を作る関数のようなもの。
- F: C->D
と書くと、圏Cから圏Dを作る函手Fということになる。性質としては
- F(id:c->c) = id:d->d
- F(f.g) = F(f).F(g)
- c,c1,c2,c3∈C, d,d1,d2,d3∈D
- g: c1->c2, f:c2->c3, F(g):d1->d2, F(f):d2->d3
- F(c) = d, F(c1) = d1, F(c2) = d2, F(c3) = d3
図式も函手。上記図式は、任意の圏から図式を満たすようなf,g,hを選んで3点からなる圏を作っている函手になる?
極限(limit)
equaliserの定義のうち上部分を図式にすると、
となる。このうちeを満たす射(Eとなる対象)はたくさん存在する。
このうちE,eを除いたX,Y,f,g部分を図式をDにまとめてしまうと、定義の下部分は
となるuが唯一のみ存在するものとなっている(e.u = h)。
limitの定義は、この一般化したDについての下部分そのものになる。
集合での考察から推測すると、limitは図式を満たすようにするための過不足無い情報を持った対象という感じか。
直積(product)
Dが対象二つのときのlimitが直積。
集合C={c1,c2,c3,c4}から集合A={a1,a2},B={b1,b2}への関数をそれぞれf,gとすると、
- f={(c1,a1),(c2,a1),(c3,a2),(c4,a2)}
- g={(c1,b1),(c2,b2),(c3,b1),(c4,b2)}
のときCは直積。
もし、C'={c}とすると、f=f'.uかつg=g'.uとなる射uは定義域が合わず存在しないし、C'={c'1,...c'5}とすると、c'n中に値がかぶる要素が二つはあるので、f=f'.uかつg=g'.uとなる射uが二つは存在することになるため、いずれの場合も定義を満たさない。
pullback
2つの対象A,Bからさらに射j,kによってある対象Gに行き着く場合のlimitをpullback。
- j.f = k.g へのlimit
- j.f = u, k.g = vとすると、u,vのequaliserになっている
直感的なイメージは、射j,kで同じ出力を持つ入力どおしの直積だろうか。つまり、直積+equaliserみたいなかんじ。
たとえば、j={(a1,c1),(a2,c2), (a3,c3)}であり、k={(b1,c1),(b2,c2),(b3,c1)}なら、Gは{(a1,b1),(a1,b3),(a2,c2)}でf=fst,g=snd(と同型の対象)になる。
colimit
limitの逆。図式から出る任意の射hについて、hと可換なu.qでとなるuが唯一存在する射q
- 始対象
- coequaliser
- 直和(coproduct, categorical sum)
- pushout
双対(dual)
射を逆向きにしたものをdualという。
- limitとcolimit
- 終対象と始対象
- equaliserとcoequaliser
- 直積と直和
- pullbackとpushout
用例: limitのdualは、colimit。
普遍(universal)属性
ある性質Pが、任意の「なにか(category)」について成り立つことをuniversalである、という。Pは「なにか」のuniversal property(のひとつ)である、ともいう。
- 直積は、「任意の対象たち」について、universalである
- 直積は、任意の対象のuniversal property
- pullbackは、「codomainが同じものである任意の2つの射(たち)」についてuniversalである
- pullbackは、codomainが同じものである任意の2射のuniversal property
universal propertyにはdualとなるuniversal propertyが存在する。
完備(completeness)
その図式のlimitが存在する圏こと。以下と同じこと
- terminalとすべてのpullbackがある
- terminalと2項productとequaliserがある
- 任意productとequaliserがある
dualの、colimitが存在する圏はco-completeness。
例: 対象が自然数で、射が自然数倍の圏
対象が1,2,3,...,∞で、射がx1、x2、...x∞な圏Cを定義する。
と
- 始対象は、1
- 任意の対象nへの射はxnのみ
- 他の対象から1への射は存在しない
- 終対象は、∞
- ∞→∞の射はid射
- 他の任意の対象からの射はx∞のみ
- ∞から他の対象への射は存在しない
- 任意の2数(対象)への直積は、それらの最大公約数
- 任意の2数(対象)への直和は、それらの最小公倍数
- pullbackとpushoutも、それぞれ最大公約数と最小公倍数
- 例: 5→30と10→30のpullbackは5、5→15と5→10のpushoutは30
- 任意の2射にpullback、pushoutが存在する。
この圏自体はcompleteであり、cocomplete。
この圏上の任意の対象と射からなる任意の図式において、limitとcolimitは、それぞれその対象の最大公約数と最小公倍数になる(すべて約数と倍数でのみ射でつながるので)。